メトロポリタンの陰

出会った人とのフィクション、ノンフィクション

story

ドジャースの人

「来週いよいよドジャーススタジアムだよ」 定年退職休みを利用して弾丸ツアーで大谷くんの観戦にいくとのこと 彼は中高と野球をしてきた 社会人になってからは、強い趣味を持つことなく 日々真面目に過ごした 唯一の日々の頼りは大谷くんの活躍だった 「大…

夢の船

港の堤防に初老の男が腰掛けている 「あれは未来から来た船なんだ」 視線の先に客船が浮かぶ 「私のやりたかったこと、やれなかったことが詰まっている」 「では、過去から来た船なんじゃ...」 「いや、それを実現した私が乗っているんだ」 数歩歩いて振り返…

日々

彼は辛そうに机に向かい 書類を整理してパソコンに打ち込む 「仕事が楽しくない?」 「早く帰って家で飲むことばかり待ってますよ」 1日が早く終わるといいけれど その分、最後の日も早く来る カイゼンかな Leica M Monochrome Summicron 28mm

赤い灯籠

「転職が決まりました。これで地元に戻れます。」 2月に彼が大学時代を過ごした街への出張が偶然あった 夜、飲んだ後のホテルへの帰り道 ビジネス街は人通りもなく 工事エリアを知らせる三角のコーンが赤く灯る 神社の灯籠のようだった 導かれるように歩いた…

花よ咲け

この年になって周囲から受ける相談内容が変わってきた 「役職定年になって給料が半分以下になったよ。いい話ない?」 そうそう虫のいい話があるわけでもない 「そりゃ、自分で頑張って探すしかないよ。頑張れる?」 加齢は恐ろしいもので、考える力を失って…

その人

いつもにこやかな人だった 人当たりが柔らかく慕う人が多かった 会社の寮が一緒でよく話をした ひとつ上だったけど色々なことを語りあった その人が転職してからは会うことがなくなり 年賀状で近況を伝え合うだけになった 互いに「元気?」と言うだけの その…

水の無い港3

夜、ホテルから見えるミラノの通りは人通りもほとんどなく 石畳の道がカラカラに乾いているようだった 運河が干上がるとこんな感じだろうか フロントに紹介されたレストランには4日連続通った 2日目の夜には合流した仲間を連れて 今まで1番パスタを美味しく…

水の無い港2

深夜のホテル 古そうな建物のフロントには英語が喋れない親父さんしかいなかった 明朝は息子が来ると言ってるらしく 手続きは明日になった 朝フロントの息子は気持ちいいほどの青年だった アポイントがある僕は手短に話すと外に出た 夕方ホテルに戻ると青年…

水の無い港

夜遅くに着いたシャルルドゴール空港 もうお店も閉まっていた 乗り換えのターミナルは端っこで 疲れ果てた旅行者がポツンと離れてベンチに座る 2時間もあるのに1人の僕は荷物を置いてトイレにも行けない ガラスの向こうは真っ暗 赤い点滅は港の船のよう 事務…

ever green

「今週、同期会あるけど来る?」 「どうしようかな」 「まぁ、どうせ昔話しかしないだろうけどね」 「そうだねぇ、じゃやめようかな」 「了解。自分が幹事だからさ」 「それよりさ、神社の研究してるってあったけど、何?」 「面白いよ、今度ゆっくり話そう…

ドライブイン

ネオンがチカチカ点滅するドライブイン 「表のニンジャって?」 「あ、僕のです」 「いいですね。ニンジャは夜に似合う」 「ありがとうございます。おじさんは?」 「ん?車だよ」 「どこまで行くの?」 「もうちょっと、明け方になったらUターンです」 「そ…

夜はしんとして

静まりかえった夜遅く 離れた線路のガタンゴトンという音が聞こえる 誰かが起きている 近いうちに飲みましょうね 日にちを決めない飲み会の約束は 幾つも溜まっていく あぁ行かなきゃいけない 墓参りもある 幾つもあるのは悲しいことだ ガタンゴトンと長く続…

繋がる思い出

雨が止んだ学校帰り 坂の上からの開けた景色の遠くに 天使の梯子が見えた 気持ちが高なって 声を上げながら 自転車で駆け降りた 初めてバイクで遠出した日 潮見坂から唐突に現れた海を見下ろした 目を開けていられないほど 波がキラキラ輝いていた そんな思…

土曜のカフェ

土曜日のカフェは騒がしい 1人客が多いのに数少ない二人組とかの声が大きいからだ 知人と最近の若者は普段の会話の声が大きいよねと話になった 「承認欲求の変形じゃないの?」 あぁそうかもしれないとうなずく 「LINEの影響からか、終わらない短い話が多い…

新宿の走馬灯

その地下通路、地上へ繋がる出口に走馬灯が走るという 横をふっと通り過ぎて光の中に消えてゆく 現れるのは 過去の人 消える瞬間に名前を思い出す 声をかける前にいなくなる Leica M Monochrome Leica Summar 50mm

西新宿

同棲していた元彼女から久しぶりの連絡があった 「遅いわよ」 「上のコンランでテーブルライトを見てたんだけど、昔に比べると高いね」 「そりゃそうでしょ。でも持ってたんじゃないの?」 「いや、あの時の引越しでシェードが割れちゃってさ。同じの探した…

パーソナル

ゴルフを始めてしばらく経ち チョイスを読むようになった頃から そのうち手に入れようとは思っていた ベンホーガン パーソナル アイアン ベンホーガン には仕事上の繋がりもある だけど彼らとゴルフに行っても 今や誰も使用していない ただし毎回彼らは僕の…

学校机の日々

「今度市長選に出ることにしたよ」 何年かぶりのメールは短い文だった 政治の匂いがしなかった彼がどうして急にそうなったかはわからない 「立派だと思う。陰ながら応援するよ」 離れて暮らす僕には故郷の選挙権はない それでも50を過ぎて人生を変えようとす…

遠い香り

突然のプレゼントをありがとうございます 何も言わないまま引っ越ししてしまったので 怒ってるかと思ってました とても嬉しいです さっそく今日からデフューザーを使ってます いい香りです あの頃の香りを覚えていただいていたのも とても嬉しいです 私にと…

四角い箱

「病んでると思われるかもしれないけど、病んでないんだ」 駅から続く古い街の中にあるソープランド 窓のない部屋で彼女は1日を過ごす 働く理由を聞かないのが暗黙のルール 「外の天気は分からないんだよね」 大学にはほぼ行ってないという 客がつかない時は…